公開: 2024年4月20日
更新: 2024年4月21日
米国ハーバード大学の心理学者、マクレランドが、1973年に学歴や知能の水準が同等の外交官同士でも、業務の達成度に差が出る理由について研究し、知識、スキル、人間の根源的特性含む要因を調査し、行動様式が重要であることを指摘しました。その後、ボヤティズは、「組織の置かれた環境についての認識と、職務上の要請を考慮して、個人の行動を制御し、期待された結果を導き出すようにその行動を適合させる能力」と定義しました。日本では、「行動特性」と呼ばれています。
その行動特性が問題になったのは、何を知っているか、どこまで知っているか、何ができるか、などに大きな違いがないにもかかわらず、業務を実施する能力(良い結果を出す力)には、大きな差がある例が多いからでした。その差が生み出される原因には、幼児期からの「しつけ」や、道徳教育が関係が関係していると考えられています。このことは、同じ時代に実施された実験である「マシュマロ・テスト」でも確認されている、我慢する力の重要性でも、指摘されていることです。
マシュマロ・テストは、200人を越える幼児を対象に実施された実験で、被験者の子供にマシュマロを見せて、「これを今すぐに食べても良いのですが、10分間我慢したら、もう一つあげます。」と言って、観察者は部屋を出ます。10分後に観察者が部屋に戻った時に、被験者がマシュマロを我慢して食べなかったかどうかを記録します。実験ではその後、数十年にわたって、その被験者の子度たちが成長して、どのような学校で教育を受け、どのような職業に就いたかなどについても調査しました。その結果、人生に成功した人の割合は、圧倒的に我慢できた子供たちが、高かったことが分かっています。
このマシュマロ・テストは、短時間で得られる利益と、長時間で得られる利益を比較して、長時間で得られる利益を優先できる人の方が、人生で成功する人が多いことを確認したと言えます。つまり、長期的に見た成功は、短時間での利益の積み重ねではないことを示しています。そして、このような考え方を獲得するのは、学校教育などで教えられる知識よりも、もっと人生の早い時点からの教育で身につく、「しつけ」などが重要であることを示唆(しさ)しています。特に、米国のようなキリスト教に基づいた価値を重視する社会では、そのような傾向があるようです。
行動経済学の実験では、ドイツと米国の現代の有名大学の大学院生と、動物園のオランウータンを対象にして、マシュマロ・テストに似た実験を行ったところ、多くの大学院生は、短期的な視野での利益の獲得を重視する傾向が強く、オランウータンは、必要以上に獲物を獲らないと言う意味で、長期的な視野に立って行動すると言う、傾向が見られたと言う報告があります。現代社会では、変化が激しいので、利益が得られるときに、できるだけ多く得ておく方が良いと考えられているようです。
いずれにしろ、ある人がどれだけ、社会の発展に貢献できるのかは、その人が知っている知識の量や質に比例すると言うより、その人が親や周囲の人々から教えられ、知らず知らずのうちに身に着けた、自分に与えられた使命を自覚する力と、その使命を全うしなければならないと考え、自分を律して行動する信念とそのために投入した努力と忍耐、すなわち倫理観が重要なのです。そのような倫理観なしには、失敗を恐れず、長期的視野に立ち、継続的な努力を注ぐことを諦めずに全うしなければ、目的を達成することはできないのです。